売買モデルプランニングの際のヒントをいくつか挙げておきます。
1.まずトレンドの有無を判定する仕組みを作る
トレンドの強い局面ではだましに遭遇する確率は低いので利益を積み重ねることは比較的容易です。
問題となるのは値動きの多くを占めるトレンドレス局面での対応です。
ここで対応を誤ってしまうとせっかくトレンド局面で積み上げた利益をあっという間に吐き出しかねません。
トレンドレス局面でトレンド局面と同じ売買モデルでエントリーを続けてしまえばそのような結果に陥るのは当然の帰結。
トレンドレス局面にはトレンドレス局面に対応した売買モデルを用意しておく必要があります。
システムパフォーマンスの優劣はトレンドレス局面での対応に左右されると言っても過言ではないと思います。
売買モデルを使い分けるためにもまずすべきことはトレンドの有無判定です。
判定に使えそうな指標をいくつか選出し、有無を分けるパラメータ値を試行錯誤して見つけ出していきます。
その際、複雑な動きをする値動きをトレンド有と無にきっちり分けるなどということは当然不可能です。
おおまかにでも分類できれば御の字です。
局面さえ大まかにでも分類できればあとは局面に適した戦略を立案し、シートに具現化し検証を繰り返していくことでシステムの性能は確実に向上します。
ちなみに運営者の場合は価格ではなく基準移動平均値のモメンタムやROC(変化率)、価格と基準移動平均線との乖離、日の変動幅、標準偏差値等を組み合わせてトレンドの有無を判定しています。
2.勝つ確率の低いエントリーをできうる限り排除する
トレンドの有無をある程度判定できたとします。
では、トレンドレス局面での対応はどうすべきでしょうか?
原則、見送りが正解です。
法則性を元に構築したルールを法則性のない局面に使用すること自体おかしな話です。
法則性がほとんどないのですからあえてエントリーする理由がありません。
トレンドレス局面ではトレンド局面で得た利益を極力減少させないことが最優先です。
そして見送りはメンタル面でも大いにメリットがあります。
戦って、例えば初日100円勝ち、2日目は100円負けだったとします。
手数料のことはここではおいておいて、
利益は0で資産的には変わらずですが、
メンタル的にはダメージを受けていてマイナス勘定です。
行動経済学プロスペクト理論の価値関数によれば損失は利益の2~2.5倍のダメージを受けるとされています。
勝つために行うトレードですから戦ってプラスマイナス0では負けに等しいというところもありますし。
このダメージ、
短期間ではあまり表面化しませんが、長期スパンでみるとボディーブローのようにメンタルに悪影響を及ぼし、ひいては運用中断の要因にもなってしまいます。
極力、無駄なダメージを受けない、そのための見送りでもあります。
トレンドレス局面では、原則、見送りが基本です。
しかし、トレンドレスでも利益を得たいということであれば、シビアーな条件のカウンターアタック用のトリガーを使用してエントリーするという手もあります。
条件が合致した場合はシビアーな条件でのエントリーということで勝つ確率は多少高めとなりトレンドレス局面でもある程度利益をもたらしてくれる可能性が出てきます。
【追記】
勝つ確率の低いエントリーの抑制ということで、一点、追記しておきます。
分足を使用したザラ場デイトレシステム(最大1日1回のエントリー)の場合、寄りから一定時間経過するまではエントリーを見送った方がベターです。
裁量トレードでしたら稼ぎ場ですが。
この間は1日で一番大きく動いてくれる局面ですから当然参戦したくなります。
しかし、寄ってから参加者全体の総意がある程度定まるまで、ギャップ、各仕掛等の関係でかなりトリッキーな動きが続きますので、イレギュラーな動きが最大の敵であるシストレの場合は、エントリーは避けておいた方がいい時間帯です。
大きく動きますから流れのいい時は大きな利益を得られますが、合わないと散々な結果になり易い時間帯です。
ということで、ザラ場デイトレシステムのサインファイルには何時から何時までと指定できるようなパラメータを最初から組み込んでおくことをお勧めします。
3.エントリーはトレンドフォローエントリーを原則とする
さて稼ぎどころのトレンド局面。
戦略としては、裁量トレードと同様、シンプルなトレンドフォロー系テクニカル指標を組み合わせたトレンドフォロー(順張り)エントリーが基本です。
裁量トレードであれシステムトレードであれ、トレードの基本は流れに逆らわない事です。
その方が利益を大きく伸ばせる可能性がありますし、大きなけがをする確率も低くなります。
4.テクニカル指標は極力シンプルなものを採用する
エントリートリガーはいろいろなテクニカル指標を組み合わせて構築していきます。
その際、採用するテクニカル指標は計算式を理解でき、かつ相場のどのような動きを表現しようとしているのかを容易に把握できる指標を使用することが重要です。
現在、派生的なものを含めると非常に多くの指標が考案されています。
なかには理解できないような複雑な指標も数多く存在します。
複雑なテクニカル指標を採用したからよりハイパフォーマンスのシステムを構築できるなどということはありません。
それに、理解できないような複雑な指標ではバックテスト時にまともな検証ができません。
使用する指標は次のようなシンプルな指標で十分です。
●相場のトレンドや勢いを把握する際に適した指標
移動平均線、パラボリック、ボリンジャーバンド、モメンタム、ROC等
●価格と基準移動平均線との位置関係を知るのに適した指標
移動平均乖離率、エンベロープ等
●過去の値動きに対する相対的な位置を表現してくれるもの
RSI、ストキャスティクス等
●相場の転換期を表現してくれるもの
MACD、平均足等
5.出口戦略の重要性を認識する
シストレ=エントリー戦略的なイメージが強いせいかイクジット戦略がおろそかになりがちです。
出口戦略もパフォーマンスに多大な影響を与えますのでどのような手じまい方法が有効なのかを十分検討しておく必要があります。
まず、安全性第一ということで、
どのようなタイプのシステムにも原則強制ロスカット機能装着は必須です。
寄引システムのようなデイトレードの場合、
デイトレード自体が一種のロスカット機能のようなものですが、イベントや要人の発言による急激な大幅変動にも対応しておかなければなりませんので強制ロスカット機能は装着しておいた方がベターです。
分足ザラ場自動売買システムの場合、
建玉したらすぐに建玉に対して逆指値のロスカット注文を発注するような機能をロボットに装着しておく必要があります。
サインシステムのロスカット機能は足の完成時にしか作用しません。
何かしらのイベントが発生するとたった5分でも大きく動いてしまうことがありますから、強制ロスカット機能は不可欠です。
次に利確機能についてですが、
日足使用寄引システムの場合は損切か利確かの選択になり通常はリスク回避優先で損切を選択します。
損切機能と利確機能、双方を装備したい場合は、ザラ場の動きを分足で検証して納得できる数値を見いだせればW指値で実現できます。
自動売買ロボで運用する前提であれば状況を見ながら利幅を拡大していくトレーリングストップ機能も装備可能です。
分足ザラ場自動売買システムや日足使用のスウィングもしくはポジションシステムの場合はトレーリングストップ機能は必須です。
トレーリングストップ機能の発動値をどれくらいにするのか、及び最大利益からどのくらい利幅が減少したところで利確するのか、この2つの数値はリターンに大きな影響を与えますので最適化には時間をかけるべきです。
トレーリングストップ機能の発動値を浅めにすると、通常、勝率は上昇、ドローダウン値は減少する傾向が強まり堅牢性は高まります。
しかし、大きなトレンドの初期段階で利確してしまい大利を逃してしまうというデメリットも生じやすくなります。
その辺のバランスを考慮しながらパラメータの数値を決定します。
ロスカット値やトレーリングストップ機能発動値の指定方法には、一定値、変動量のパーセンテージ、価格のパーセンテージ等が考えられますが、どれが最適かは一概には言えません。
都度、価格や変動幅は異なりますから一定値よりも何かしらのパーセンテージを使用した変動値の方が理に適っていてパフォーマンスが良くなると思うのですが、検証してみるとケースバイケース。
試行錯誤しながら最適なものを探し出していくしかありません。
売買モデル例:寄引システム
運営者の場合のモデル構築例です。
だいたい次のような手順で構築しています。
①下記のような指標を使用して取り敢えず売買を判定します。メインのサインとなります。
・基準移動平均線と価格との位置関係(乖離等)
・基準移動平均線のアングル
・ギャップ
・その他テクニカル指標
etc.
②下記のようなデータと日中セッションの陰陽との関連性を調べフィルターとしての売買モデルをいくつか構築します。
その際、取引数をかなり絞ってでも勝率を高めることを最優先します。
・過去のローソク足パターン
・NYダウの結果
etc.
運営者は使用していませんが、フィルターとしてはこの他に
・外為(USD/JPY)の結果
・ナスダックの結果
・S&P500の結果
etc.も考えられます。
③①のメインサインと②の各フィルターのサインを比較して、
・メインサイン無の場合、エントリー見送り
・メインサイン有かつ②のフィルターのサイン無の場合、メインサインでエントリー
・メインサイン有かつ②のフィルターのサイン有でメインと同じサインの場合、メインサインでエントリー
・メインサイン有かつ②のフィルターのサイン有でメインと逆のサインの場合、エントリー見送り
と、くどくどと書いてしまいましたが、
「フィルターの逆サインで否定されない限りメインサインでエントリー」の一言で済みましたね。
メインサインだけでPF1.5程度、最大ドローダウン2000円以下のモデルを構築し、
細かいフィルターをぶつけていって勝つ確率の低いエントリーを削っていき
なんとかPF1.7~2.0程度に引き上げ、
最大ドローダウンに関しては1500円以下できれば1000円以下にもっていくという感じです。
売買モデル例:分足使用ザラ場スウィングシステム等
基準移動平均線のアングル、変動幅、標準偏差等のデータからトレンドの有無を判定し、トレンド有の場合に、下記のような条件をトリガーにして仕掛けます。
・イニシャルレンジブレイクアウトや40-20ドンチャンのように過去の高値、安値をブレイクアウトした時
・採用したトレンドフォロー系テクニカル指標が基準移動平均線の方向と同一方向のサインを出した時
・短期移動平均線が基準移動平均線のエンベロープを上下にブレイクした時
etc.
最後のエンベロープブレイクはだましによる損失を回避するためにも有効です。
まとめ
売買モデル構築というと、いかにエントリーするかということにエネルギーを注ぎがちですが、実際には相場の局面の多くは法則性の見いだせないトレンドレス局面です。
トレンド局面では、ある程度理にかなったエントリー条件であれば比較的容易に利益を積み重ねられます。
しかし、トレンドレス局面で同じようなエントリーを繰り返してしまえばあっという間にトレンド局面での利益を吐き出しかねません。
システムを構築できたので、
バックテスト、
しかし、
結果は思わしくなく、
エントリー条件をあ~だこうだと手直し、
それでもなかなかパフォーマンスの向上は見られず。
そのような場合、
もしかするとエントリー条件自体に問題があるのではなく、エントリー条件を適用すべきではない状況にもかかわらず無理に適用させようとしていたのかもしれません。
いかにすれば勝つ確率の低い局面でエントリーしないで済むか、堅牢性の高いシステム作りにおける重要なテーマの一つです。